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★★★ 薔薇色の21世紀 ★★★

 幼児の時、買ってもらった本は一冊。パイかホットケーキか不明の当時未知の食べ物と、女の人が登場する絵本。女の人がパイを食べすぎて叱られるという内容だったようなあいまいな記憶、意味不明な何の教訓も無い本だったと記憶しています。
 小学生の時に科学図鑑を買ってもらいました。その一冊には蒸気機関車の仕組みとかの説明図がありました。興味深深です。さらに別の巻には、21世紀の社会のありさまの絵が載っていました。道路には車が無く、流線型の動く歩道が外側から内側に向け段々速くなるという説明の絵などが描かれていました。光輝く21世紀の科学文明を夢見て、前途洋洋、胸躍らせたものでした。

 今21世紀に生きる58歳の私、周りの風景を見るに、何か違います。駅前から山奥まで道路が貫通しました。車がめったなことでは通りません。過疎っています。高速道路のバス停ジャンクションは綺麗に整備された公園になりました。誰も居ません。街のあちこちに20世紀の異物のガラクタがあちらこちらに転がっています。地区の集会には21世紀を担う若者が一人もいません。老人ばかりです。
 私の兄は性格がゴミ屋敷の住人に近く、車庫も納屋も決して使うことのないガラクタを目いっぱい詰めこんでいます。母屋の各部屋も次第に、兄の宝物(エロ本、旧式電子機器、インチキ新聞、くしゃくしゃの衣類等)が整理されることなく詰め込まれています。兄が活動する領域は次第にガラクタが占領して行き、人間が通りにくくなります。老廃物が溜まって血管が無価値になるがごときです。母屋の電気水道、税金も私の銀行口座から支払っていますが、大量に部屋の中に詰め込まれた趣味の悪いエロ本やDVD類は、私が収集したものではありません。
 冬になると、兄が作成して丹精を込めている温室で電気ストーブを炊くので通常月の50倍の電気代がかかります。夏には植物のために水道を出しっぱなしにしておいてから帰ったりするものですから、通常月の20倍の水道代がかかります。兄が夢中になって製作している温室は、継ぎはぎだらけの浮浪者の小屋のような出鱈目な概観をしております。素材は鉄骨とプラスチックのようなものからできており、その半透明のプラスチック板がすぐに加水分解してボロボロになって飛散しますので、毎年秋から雪が降る頃まで、兄は毎日やってきては温室の再構築をしています。鉄骨に塗るペンキがあちこちに飛び散り、溶接装置をやかましく稼動させます。人間活動による地球環境悪化の象徴のようなものを感じます。
 兄の製作する温室の暖房施設は独走的です。温室の外にドラム缶の風呂を作りました。どこからか調達した廃材を庭に投げ込んで、それを夜に燃やして風呂を沸かし、お湯を温室の中に流し込みます。どうもあまり効果がなかったようで、今度は煙突の先を温室の中に入れました。普通は煙突は中から外に出すものですが、外に暖房器具を置いて、煙突を部屋の中に入れるという大胆な発想です。煙突の周囲のプラスチックが大胆に溶けていて不気味でした。