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百足達の楽園

聖書の何とかの節にある、悪霊が集まって来て楽しく住み着くように、私の住む屋敷には木陰に雑草が茂り、蚊が仲間を引き連れて来て不気味に充満しています。この雲蚊のごとき悪霊等に襲われないように、外に出る時は長袖、長ズボン長靴に貴婦人が被るような網つき帽子で正装してから、薔薇十字軍の騎士のような気概で鬱蒼とした領地を凱旋して回るのです。悲しいことに私の家の不便な便所は玄関の外にあって毎度毎度変な出で立ちをしてお出かけするのです。大雨の日には便所の天井界から恵みの水が落ちて参りますので傘も持参いたします。狭い所で仁王象のごとく踏ん張りながら蚊を相手にテニスラケットのような電撃装置を振り回すこともありました。家の外は生物達の生存競争が激しいので苦労します。玄関を密閉空間の関所にすることで蚊の侵攻を防衛しています。家の中の蚊の存在確率はとても低いので昆虫用の毒ガス兵器も使わずに平和に暮らせております。

今年も枇杷が沢山実りました。屋敷内には実がなる枇杷の樹が9本生えています。たぶん9尾の妖怪のような天使が枇杷の実をつつき回してあちこちに種を散乱させた結果なのです。鬱陶しい枇杷の季節には、甘露なる枇杷の実が盛大に降って来ます。隣地の公道にも降るので、世間体を気にする器の小さい私は、毎日毎日、迷惑な天からの賜物である果物を熊手でかき集めては敷地内に投げ捨てています。この時、塵取り器として使用しているのが、巨大なるパソコン用の鉄壁の側板です。掃除後に、この強情な鉄板は玄関に立てかけます。以前迂闊な割る者の車か自転車でガラスを破壊されたので母屋の玄関を防衛するためでもあります。大量の枇杷の実がそこらじゅうに充満して発酵して酸っぱい匂いが漂います。そして、この豊穣なる大地に泡沫の虫が発生し日々陰険な生存戦争を繰り広げています。そしてこの百獣の虫の王様こそ、恐怖の大王である百足であります。

昨日のことです。私が寝室で寝ておりますと手にかすかな痛みがありました。悪い予感がしましたので飛び起きてすぐさま悪霊退散の儀式を患部に施しました。ムカデに襲われた時の対処儀式には二つの宗派があります。冷たい教えと熱い教えとがあります。患部を冷静にして専門の牧師の所に行って慰めてもらえ!という宗派と、悪魔に噛み付かれた呪いを破壊するには灼熱の苦行を実行すべしという教えです。私は火傷しないようにドライヤーの熱風をあてたり石鹸で洗ったりと好い加減なことをした後、復讐をするために懐中電灯とラジオペンチを持って寝室に舞い戻りました。敷き布団を引っぺがすと案の定、ムカデがトグロを巻いて居座っておりました。逃げ回るのでベッドの畳も棚板も引っぺがしてとっ捕まえて外に投げ捨ててやりました。それからベッドの足には念入りに悪霊退散用のアルミテープを念入りに貼り付けておきました。